マイノリティにとって優しい社会はマジョリティにとっても優しい社会(トランスジェンダー活動家 杉山文野さん)
MITSUBOSHI 1887を愛用してくださっている「使い手」の声と出会うMeets VOICE(ミツボイス)。
今回はフェンシング元日本女子代表で、現在は日本最大のLGBTQ+プライドパレード『東京レインボーパレード』の運営や、学校や企業へのダイバーシティやLGBTQ+に関する講演や研修等を行っている、トランスジェンダー活動家の杉山文野さんに、ダイバーシティ担当の今野がお話を伺いました。
※MITSUBOSHI 1887(三星毛糸)がLGBTインクルージョンに優れた企業を表彰するwork with Pride「PRIDE指標」にて2年連続ゴールド(最高位)を受賞したことを記念し、1万字のスペシャル・ロングバージョンにてお届けします。
- 昔は、セーラー服にルーズソックスを履いた女子高生でした
- LGBTQ+の方たちにとっての大きな課題は「幸せな未来が描けない」こと
- みんなきっと何かしらのマイノリティで、上手くいかないことだったり、生きづらさがある
- 既存の「らしさ」にとらわれない、多様なファッションの選択肢があってもいい
- メリノTシャツは、洗濯しても縮まないし、着心地も変わらない。赤ちゃんの肌にも安心なのが嬉しい
- マイノリティでもマジョリティでも関係なく、みんなが幸せになれる社会
- 多様な社会において、ダイバーシティはスキルの時代
- 当事者にとって「言えない」と「言わない」は全然違う
- 間違えちゃったら直せばいい。むしろ間違えない限り、先には進めない
昔は、セーラー服にルーズソックスを履いた女子高生でした
(今)
LGBTQ+について知見のある人なら誰もが知っている杉山さんですが、初めて知る方に向けて自己紹介と現在に至るまでの経緯をお聞かせいただけますか。
(杉山)
杉山文野と申します。現在39歳で見た目はこんなおじさんですが、昔は女子高生やってました(笑)。
実家が新宿の歌舞伎町で70年近く続くとんかつ屋で、生まれも育ちも新宿です。幼・小・中・高と日本女子大学付属の学校に通って、高校時代は女子高生としてセーラー服を着てルーズソックスを履いて過ごしてましたね。
ただ、幼稚園の入園式のときにはすでに自分の体に強い違和感を感じていて。ずっと誰にも言えずに過ごしていたんですが、高校生の頃から少しずつ周囲にカミングアウトするようになりました。
(今)
徐々にご自分のセクシュアリティをオープンにしていったんですね。
(杉山)
そうですね。それで、「最終学歴が女子大じゃ就職できないな」と考えて、当時やっていたフェンシングで早稲田大学に推薦入学しました。でも、就職活動中に「エントリーシートの性別欄どちらに丸をつけたらいいんだろう」「制服のあるような仕事にはつけないしな」と悩んで、将来が見えずに悶々としてました。
そのとき、大学のゼミの教授(杉山さんは教育学部でマイノリティ研究をしていた)が「杉山さんは少しずつカミングアウトをしているけど、世の中はまだまだ厳しい。理論武装という意味でも、大学院でアカデミックに研究してみるのはどうだ」って言ってくれて。大学院に進むことを決めたんです。
ただ実際は、大学院に進めばしばらくは社会に出る必要もなくなるし、 当時プロというカテゴリーがなかったフェンシングも学生なら続けられるんじゃないかっていう甘い考えもありました。
(今)
葛藤と迷いの日々だったんですね。そんな中、LGBTQ+の啓蒙活動を始めたきっかけは何だったんですか?
(杉山)
大学院卒業の前後のタイミングで、ご縁があって自叙伝『ダブルハッピネス』を出版することになったんです。 それがきっかけで、LGBTQ+についての講演活動を行うようになりました。でも結局なかなか思うようにいかなくて、就職も決められないまま押し出されるように大学院を卒業して、本の印税を片手に海外をぷらぷら放浪したりしました。
帰国後、いよいよ就職だということで飲食業界に入って、30歳のときに独立して今に至ります。
現在は、主に全国の学校自治体、企業へのLGBTQ+やダイバーシティに関する研修や講演活動、東京レインボーパレードの運営、飲食店の経営が、活動の大きな柱ですね。
LGBTQ+の方たちにとっての大きな課題は「幸せな未来が描けない」こと
<ゲイの親友(写真右)から精子提供を受け、パートナーである女性(写真左)との間に一児をもうけた杉山さん。現在は3人親として子育てに奮闘中。>
(今)
ご実家の家業でもある飲食業界に就職されたんですね。当初、ご実家の会社に入ることは考えなかったんですか?
(杉山)
そうですね。実家のことがあるから、自分は何かしらの形では飲食業に携わっていくだろうなとは思っていましたが、親の会社にすぐに入るよりは一回外でちゃんと勉強したいという想いがあって。鉄鍋餃子などで有名な際コーポレーションという会社の企画開発部に入りました。
将来的には実家を継ぐという可能性も、視野に入れてはいます。うちの場合、娘が2人で跡継ぎがいないと思っていたら急に息子ができたっていう、結果的にすごいポジティブな状況になったんですよ。
(今)
なるほど!MITSUBOSHI 1887代表の岩田も、一度、東京レインボープライドでお父様にお会いしたことがあると言っていました。赤ちゃんを幸せそうに抱っこされていたのが印象的だったと。
(杉山)
はい、楽しくやっていますよ。でも、今に至るまでに色々葛藤や対立もありましたし、それこそ最初に打ち明けたときは、「頭がおかしいだろうから病院に行け」みたいなところから始まって。最終的にしっくりくるようになったのは、自分が30歳を超えてからぐらいでしたね。
(今)
やっぱり、お孫さんの誕生はご両親にとっても大きかったんでしょうか?
(杉山)
それは本当にそう思います。
彼女のご両親にも僕たちの付き合いはずっと反対されていましたし、僕の両親も最終的に受け入れてくれたとはいえ、僕が子供を持つことについては諦めていた部分があったと思うので。
だから僕が今こうしてパートナーを得て、子供を持てたことを本当に喜んでくれていて。向こうのご両親も、最初反対していたのが嘘みたいに今は孫にメロメロです(笑)。
(今)
お二人が人生の新しいステージに進んだことが、ご家族全体にとってもいい影響をもたらしたんですね。
(杉山)
そうですね。LGBTQ+の方たちにとっての大きな課題の一つは、「幸せな未来が描けない」ということだと思うんです。LGBTQ+の子どもたちの自殺率が高かったり、自己肯定感が低いことの原因のには「お手本になるようなロールモデルが社会の中で見えない」ということがあるんですよね。
子どもっていうのは、身近なかっこいい大人達に憧れて未来を描くと思うんです。 だけど、社会で活躍している大人の中で、自分がLGBTQ+だということをオープンにしている人はまだまだ少ないですよね。 だから、未来を描くことができない。
でも、未来を描けないのは当事者だけじゃなくて、その当事者の周囲にいる人々も同じで。身近にいる家族も、我が子の幸せが見えないんですよ。
大事に育ててきたのに、何もそんなイバラの道を進んでくれるな、と。 自分の子供が LGBTQ+だということを受け入れてしまったら、もうこの子は幸せにはなれないんじゃないか。だからそこで、対立してしまうんだと思います。
(今)
子どもの幸せを願うがゆえに、反発したり対立したりしてしまうんですね。
(杉山)
そうだと思います。
うちの両親は最初は対立して、その後僕がトランスジェンダーであるということ自体は受け入れてくれたけど、次は幸せになれるか心配で。でもそこで、僕がパートナーと子どもという存在を得たことで、親の責任が終わったというか、「これでハッピーに生きていってくれるだろう」っていう安心感に繋がったんだと思いますね。
みんなきっと何かしらのマイノリティで、上手くいかないことだったり、生きづらさがある
(今)
近日新たに本を出版されると伺いました。どんな内容なんでしょうか?
(杉山)
生まれてから20代半ばころまで自分のセクシュアリティと向き合いながら、自己肯定感を取り戻すまでの過程をまとめているのが前回の『ダブルハッピネス』。 今回は、さらにそこから現在までの15年間について書きました。
ある程度の自己肯定感は取り戻したけど、いわゆる社会的マイノリティという立場でどうやって社会の中に自分の居場所を見つけて、制度も何もない中で就職したり、活動や恋愛、そして家族を得るに至ったか。その過程でぶつかった課題にどう向き合って、どういう風に乗り越えてきたか、みたいなことを書いています。
(今)
ご自身のセクシュアリティを社会に広くカミングアウトしてから、その社会において杉山さんが切り拓いてきた人生について書かれているんですね。
(杉山)
そうですね。でも結局これって、セクシュアリティだけの課題じゃないと思うんですよね。「自分の中にある普通」と「社会の普通」 が合わないことで、生きづらさを感じている人ってきっと LGBTQ+だけじゃないと思うんですよ。
みんなきっと何かしらのマイノリティで、上手くいかないことだったり、生きづらさがある。 そこにどう向き合って、乗り越えていくかっていうのは、ある程度共通する部分があるんじゃないかなと思います。自分の場合はセクシュアリティだったけど、 きっと課題を乗り越えてきたプロセスはいろんな人にとってもヒントになるんじゃないかって感じたんです。
(今)
ぜひとも読んでみたいです!ちなみに、なぜこのタイミングで二冊目の出版を決意されたんですか?
(杉山)
実はずっと二冊目の話はいただいていたんですが、なかなか時間がなかったのもあるし、本を一冊書くのって結構エネルギーがいるからずっとお断りしていたんです。でも、10年ぐらい経つと、そろそろ色々あったなあと。
東京レインボープライドのこともそうだし、例えば渋谷区のパートナーシップ制度発足のお手伝いをさせてもらったりとか、それにプライベートでも色々ありました。
でもやっぱり忙しくてなかなか時間がとれずにいたんですが、そこでコロナで一気に仕事が無くなって、幸か不幸か時間ができたんですよね。それで、一気に書き上げました。
(今)
コロナ自粛のタイミングで図らずも執筆の時間がとれたんですね。
(杉山)
そうなんです。それに39歳って、40代っていう次のステージに行く前に 一旦自分のやってきたことの棚卸しをする一つの区切りでもあると思うんですよ。そういう意味でも、このタイミングはちょうど良かったなと思います。
(今)
なるほど!確かに39(サンキュー)の年でもあるし、感謝を軸に振り返るのにぴったりなタイミングのように思います。
既存の「らしさ」にとらわれない、多様なファッションの選択肢があってもいい
(今)
さて、LGBTQ+においてファッションも大きなテーマだと思いますが、杉山さんはどのように感じていますか?
(杉山)
最近ではジェンダーフリーファッションなども注目されていますが、そもそも根本として僕は、男らしさや女らしさというものがいけないとは決して思っていないんですね 。
ただ、「らしさ」の強要がいけないと思うんです。
例えば、髪が短くて 筋肉質で髭を生やしてて、っていうのが男らしいと言うのであれば、それは別にいいんです。でも、そうしたくない人にまでそれを強要するのはいけないと思っているんですよ。
最近改めて思ったのが、子供が生まれて子供の洋服を買いに行ったときに、やっぱり男の子は青、女の子はピンクっていうのがこんなにも多いんだなと。中には、白とか黄色とかのニュートラルなものもあったりするんですが、本当に少ない。
生まれた直後から「らしさ」を擦り込まれているというか、 こんなにもジェンダー規範が強いんだなっていうことを改めて感じましたね。それがいけないっていうより、もっといろんな選択肢があってもいいんじゃないかって。
(今)
確かに、ジェンダーの枠を超えたもっと自由な選択肢があった方がいいですよね。
(杉山)
そうなんです。それってデザインに限らなくて、例えば僕のようなトランス男性は、平均的な男性よりも体が小さいことが多いんですよね。 そうすると、選べるアイテムってすごい限られていて。本当はもっとおしゃれしたいし、いろんな洋服を着てみたいって思っても、まずサイズが合わないんです。
ほら、ファッションでサイズ感ってすごく大事じゃないですか。どんなに素材が良くて、デザインがかっこよくても、自分のサイズと合ってないと何となく服が浮いてしまう。
だから結果的に、XSとか XXSから揃っているようなGAPとかで買うことが多くなって、何となくいつも同じような格好になっちゃうって感じだったんですね。
だけど最近は、既存の「らしさ」にとらわれずに色んな展開がされるようになって、 より多様な選択ができるようになってきていると感じます。
洋服って、自分を高めてくれたりとか自信をつけさせてくれるアイテムじゃないですか。自分に合った服を着ることで、より自分に自信が持てる。
だから、今まではあまりにも少なかった選択肢が、少しずつ増えてきたことは嬉しく思います。
メリノTシャツは、洗濯しても縮まないし、着心地も変わらない。赤ちゃんの肌にも安心なのが嬉しい
(今)
杉山さんは、MITSUBOSHI 1887ののメリノTシャツをご購入くださましたね!着心地はいかがですか?
(杉山)
最高でしたよ!
正直、最初はどちらかというと、いつも僕たちの活動を応援してくださっている三星さんに対するお礼の気持ちで購入したんです。 だけど、いざ着てみたら、本当に気持ちよくて。
うちの子供がアトピーで肌が弱いんですが、生まれたばっかりの赤ちゃんって、抱っこしてる時に眠くなると顔を擦り付けてくるんですよね。その時に肌が荒れちゃわないように気をつけていたんですが、このTシャツがまさに最適で。 安心して抱っこできるので、いつも着ています。
(今)
ありがとうございます。洗濯しても縮みませんでしたか?
(杉山)
全然縮みませんでした。実は僕、贅沢にもこちらのTシャツを部屋着として着させてもらってたんですよ。でも、洗濯しても全然よれないし縮まないし、着心地も変わらず。さすがに最近ではボロボロになってきたぐらい、ヘビロテしてます(笑)。
(今)
そんなに愛用してくださっているんですね!実は、快適なパジャマとして着てもらうことも目指した商品でもあったので、嬉しいです。
(杉山)
パジャマとして着るのは、すごくありだと思います。寝る時間って人生の中でもとても長い時間だし、快適に過ごせるかどうかって大事じゃないですか。 パンツとセットで上下あったら、嬉しいかもしれないですね。
(今)
今後、パンツの展開も検討していきたいと思います!
ちなみに、杉山さんが一消費者として製品を選ぶ上で大切にしていることはありますか?
(杉山)
製品って、それ自体の良さはもちろんのこと、その製品を作っている会社がどういうメッセージを発信していたり、どういう想いを大事にしているのかがセットだと思うんですよ。
そういったものもセットで見た上で、今回もMITSUBOSHI 1887さんの商品を買いたいな って思いましたし、企業にとっても、発信するメッセージや想いを大切にすることが求められる時代になってきているのかなと思います。
食品の分野ではすでにトレーサビリティなどが重視されていますが、今後はモノや服など、どんな商品においてもより重要になってくるんじゃないでしょうか。
マイノリティでもマジョリティでも関係なく、みんなが幸せになれる社会
(今)
三星グループでも今、LGBTQ+を含む多様な人々が働きやすい職場環境を作るための取り組みに力を入れています。
私自身、昨年子供が生まれたことで、次世代のためにも皆が安心して暮らせる社会を作りたいという想いが一層強くなり、仕事を通してそういった社会づくりに携われていることは幸運だと感じています。
(杉山)
一緒に多様性の問題に取り組むことができて、本当に嬉しく思います。
世の中にはまだ、「LGBTQ+について別に否定はしないけど、何かやる必要もないでしょ」 っておっしゃる方もいます。
なかなか自分事として捉えにくい部分があるのかと思いますが、じゃあもし自分の子どもが同性愛者だったらどうでしょう。受け入れられたとしても、「ねえパパ、 なんで周りの友達はみんな結婚できるのに、私はできないの?」と言われたら?「あなたはマイノリティだから我慢しなさい」と言えるでしょうか。
「マイノリティでもマジョリティでも関係なくみんな幸せになれるんだよ」
そう言ってあげられる社会を用意してあげることは、一個人の親として、そして社会に生きる大人としてとても大事なんじゃないかなって思うんです。
社会っていうのは地続きなわけで、結局非当事者の人って誰もいないと思うんですね。 たとえ、自分や家族が直接セクシュアルマイノリティじゃなかったとしても。
(今)
マイノリティの問題に取り組むことが、社会全体のためになっているということですね。
(杉山)
僕が自信を持ってこの活動をやらせてもらっているのは、「ハッピーな人は増えるけど、アンハッピーになる人は誰もいない」からなんですよ。
社会ってすごく難しくて、何かが前に進むと何かが後退するとか、誰かがハッピーだと誰かが泣いてるみたいなことはよくあります。
でも、同性婚ができるようになっても異性婚ができなくなるわけじゃない。
よりハッピーな人が増えて、しかも誰もがいつ当事者になるかわからないこの問題に取り組むことは、とても意味があることだと思います。
多様な社会において、ダイバーシティはスキルの時代
(今)
この流れの中で、LGBTQ+を含む多様性の推進に取り組む企業や自治体も増えてきていますが、特にどういった視点を持っておくべきだと思いますか?
(杉山)
企業がLGBTQ+に取り組むべき理由は、大きく分けると3つあります。一つめは、お客様の中にも必ずいるであろうLGBTQ+の人たちに向けた、商品開発やサービスの向上のため。 二つめは、必ず社内にもいるであろうLGBTQ+の社員にとって、働きやすい職場環境を整えるため。
そして最後の一つは、リスクマネジメントです。個人的にどう思うかまでは介入できなくても、人前でどう振る舞いどう発言すべきかというところは、今の時代一つのビジネスマナーとして身につけておくべきものだと思います。
(今)
ダイバーシティへの対応はもはやモラルを超えて、社会に生きる大人としての教養になっているんですね。
(杉山)
そう思います。僕は、ダイバーシティはスキルの時代だと思ってるんですよ。
多様化する社会というよりは、すでに社会は「多様」です。その中で、多様な視点を知らないというのは、10年前だったら許されたかもしれませんが、今はもう知らなかったでは済まされませんよね。
最近も、政治家の人の心ない発言が批判を浴びたり炎上したりしていますが、心の中で個人的に思っているのは致し方ない部分もあるかもしれませんが、政治家という立場でああいった発言をしてしまうのは政治家としてのスキルが低すぎるように感じます。
でも逆に言えば、ちゃんと知ってしまえば何てことないんことです。 加えて、生産性の向上やお客様の満足度を高めることにもつながるのなら、三方よしというか。
(今)
まずは知ろうとする姿勢が大切なんですね。では、LGBTQ+の方にとって働きやすい職場は、どんな職場だとお考えですか?
(杉山)
職場についてでいうと、心理的安全性っていうキーワードがあって。「心理的安全性が保たれている職場では、チームとしても個人としてもパフォーマンスを発揮しやすい」というデータをGoogleが発表したのが話題になりました。
LGBTQの人の多くは、常に不安を抱えながら過ごしているという現状があります。
そんな中、もし当事者が誰かにカミングアウトするとすれば、それは「あなたのことを信頼してるんですよ」っていう証のひとつです。でも逆にカミングアウトしてくれないってことは、悲しいことにあんまり信用されてないってことなのかなと思うんです。
これは、対個人でも対社会でも同じで、「これを相手に伝えても関係性が崩れない」「これをこの場で言っても、自分の立場は変わらない」そういった安心感さえあれば、カミングアウトできるはずなんです。
でも、そこに何かしらの不安があるとどうしても難しい。そんな不安に包まれた状態で、良いパフォーマンスなんか発揮できるわけがないですよね。
(今)
安心感を持てないことが問題なんですね。
(杉山)
そうです。でもこれって、決してネガティブな話じゃなくて。それだけ、まだまだ活かされていないポテンシャルがあるってことなんです。もっとみんなが安心して過ごせる職場や社会にすることで発揮されるエネルギーがたくさんあって、その分伸び白もまだまだある。そう考えると、企業がそういう事に取り組むのは必須条件な気がします。
当事者にとって「言えない」と「言わない」は全然違う
(今)
大変勉強になります。
実は現在弊社でLGBTQ+への取り組みを行う中で、なかなか目に見えて効果が実感できないこともあり、「この取り組みは誰かの役に立っているんだろうか…」と不安を感じることがあります。
実際に問題が出てきてから取り組むのがいいのか、何もなくてもまずは取り組み始めることに意味があるのか、どちらが正解なのでしょうか。
(杉山)
ダイバーシティの KPI 設定ってすごく難しいと思うんですよね。例えば女性活躍などとは違って、LGBTQ+の一番の課題は「目に見えない」ということ。つまり、やっている実感を得るのがすごく難しいんですよ。実際、「制度や相談窓口とかも作ったのに一件も相談がないんですが、これって意味あったんでしょうか」という相談もよく受けます。
答えとしては、僕はこういった取り組みには非常に意味があると思っています。
なぜなら、当事者からすると、「言えない」のと「言わない」のとでは全然違うから。
会社がそういう取り組みをしてくれていて、「いつでも言うことができる」という安心感の中で働けること。そして、その中で自分の選択として「言わない」と決めているのと、本当は言いたくても言える場所がなく、何なら「もし言ったら、自分の居場所はなくなるんじゃないか」という不安を持ちながら「言えない」のとでは、 全然違うんです。
実際、LGBTQ+の当事者の間では「会社がLGBTQ+の取り組み始めたのは嬉しいけど、あえて今さら打ち明けはしないかな」なんて声があったりします。
なぜかというと、当事者って、周囲の人に嘘をついてきたっていう感覚が強いんです。つきたくてついた嘘ではないけれど、そこに対する申し訳なさがずっと積み重なってしまっているんですよね。
会社が取り組み始めてくれたことは嬉しいし、「これで何かあっても大丈夫だ」っていう安心感はあるけど、今さらここで言うのはなあ…っていうのが当事者のリアルだったりするんです。
そういった意味では、手応えとか実感を得るのはなかなか難しいかもしれない。でも、 取り組んでいる意味は必ずあると思います。
(今)
なんだか少し安心しました。「当事者の社員に安心して働いてもらっているんだ」ということを信じて、引き続き自信を持って取り組んでいこうと思います。
間違えちゃったら直せばいい。むしろ間違えない限り、先には進めない
(今)
では、これからこういった取り組みをスタートしようとしている企業に、何かアドバイスはありますか?
(杉山)
僕が思うに、 「まずはできることからやる」っていうのが一番良くて。
例えば、「うちはアライ(※LGBTQ+を含む性的マイノリティを理解し支援することを表明している人や企業)なんです」って言っても、どこまで準備していたらアライって言ってもいいのか分からないかもしれません。
でも、これって両輪なんですよ。アライですって宣言しちゃったらにはもうやらざるを得ないし、やり始めたらアライとして見てもらえる。
とにかくできるところからからやっていって、その上で完璧なものなんてないと思うんです。どんなことでもそうですけど、トライ&エラーがあるから次に進むわけじゃないですか。失敗しちゃったらどうしようとか、当事者の人を傷つけちゃったらどうしようとか、そういうことで踏み切れない部分もあるのかもしれないけど、間違えちゃったら直せばいいんです。むしろ間違えない限り、先には進めないと言ってもいいくらい。
だから、大きくプランニングしてやるというよりは、小さなトライ&エラーを繰り返しながら進んでいくっていうのが一番いいんじゃないかな、って思います。
(今)
ありがとうございます。最後に、改めて発信したいメッセージや、私たち三星に期待することはありますか?
(杉山)
僕たちは決してLGBTQ+のことだけ分かってください、という風には考えていません。
「多様化している」のではなくすでに「多様な」社会において、マイノリティの課題に向き合うことはマジョリティの課題に向き合うことであり、マイノリティにとって優しい社会はマジョリティにとっても優しい社会である。そういう認識を共有したいという想いで、日々活動しています。
三星さんともこれからも色々な形でご一緒させていただくことで、この温度感を御社全体で高めていってもらえるきっかけになったらいいなと思っています。
(今)
こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします!今後も三星では、LGBTQ+を含む多様な人々が安心して働ける環境づくりを推進していきたいと思います。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
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